著作権研究所 / 著作権の制限 30条~

  • 2001年5月28日:作成
  • 2017年12月1日:法改正の反映、個人的見解の削除(移動)

前章が日本の著作権法の『著作権者の権利を守る』部分ですが、資料の円滑な流通と利用と言う面では障害になります。

そのため、著作権と公共の利益のバランスを取るために、著作権を制限する諸規定第30条~47条に定められています。著作物の保護期間が51条~58条で定められているのも制限の一つと考えられ、著作権の消滅後に共有財産とすることを目的としています。著作権が制限される代表的な場合について以下に示します。なお、いずれの場合も著作者人格権は制限されません。

書籍等の貸与(26条)

26条は制限に関する条文ではありませんが、図書館における貸出の根拠(結果的に著作権が制限されている)を示すため含めており、番号順で先頭に示してあります。

主に貸レコード対策として1984(昭和59)年に貸与権が新設され、著作物の貸与には許諾と補償が必要になりましたが、附則第4条の2によって書籍と雑誌は例外とされていました。附則はその後廃止され、2005(平成17)年から書籍と雑誌も貸与権対象となっており、2007(平成19)年にはレンタルコミック制度も開始されています。

附則廃止後も、図書館や貸本屋は例外とされ、従来通り書籍と雑誌を自由に貸与することが認められています。ただし、楽譜と楽譜を主とするものは許諾が必要です。

図書館は1950(昭和25)年の図書館法を根拠とし、無料原則と知る自由を前面に打出して活動してきました。しかし、その公共性の評価は社会情勢の変化の中で見直されるものであり、図書館も補償を負担する公貸権を導入するべきであると言う議論があります。

私的使用の場合(30条)

私的使用の目的で著作物を複製することは認められています。この場合、変形、翻案も認められており、プライベートな範囲であれば貸借も出来ます。

ここで問題なのは“私的使用”の範囲です。私的=プライベートな活動=職業でない、と解釈して、非営利活動=私的と勘違いされる傾向があります。狭義の著作権Cの経済的損失に注目すると非営利活動は著作権を侵害しないようにも見えますが、自分に利益がないことと、相手に損失がないことは無関係です。私的使用は『個人的に又は家庭内その他これに準ずる親密な少数の友人間のような限られた範囲内において使用すること』であって、たとえボランティア活動であっても、個人のホームページ作成であっても、対外的活動は“私的使用”ではありません。また、人数もお互いに強い結合関係にある10人程度までと解釈されており“私的使用”の範囲は本当に個人的な目的に限定されています。なお、ボランティアや調査研究などの非営利活動には別の項目で便宜がはかられています。

この、私的使用の範囲内であっても、複製の方法と使用する機器には制限があり、全ての複製が認められている訳ではありません。公衆の使用を目的とする自動複製機の使用禁止、技術的保護手段(コピーガード)を回避した複製の禁止、デジタル方式の記録機器を使用した複製の禁止が、定められています。公衆の使用を目的とする自動複製機とは、レンタルビデオ店などに設置されている高速ダビング機などを指し*、コンビニなどの通常のコピー機は、当分の間は自動複製機に含まないとされています。技術的保護手段を回避するとは、CD/DVDやコンピュータソフトのプロテクトはずしを指しているようです。デジタル方式の記録機器とはDATやMDのように録音・録画を本来の機能とする機器を指しますが、デジタル記録媒体の価格に著作権者への補償金(私的録音補償金と私的録画補償金)が上乗せされているので、普通にコピーしても自動的に許諾を得た複製となりますので、通常は気にする必要はありません。

2017年12月1日:追記 *今では考えられない事ですがビデオテープが貸出主体だったころ、高速ダビング機を公然と設置して使用させる店舗があり、そうした機器を指しています。

図書館等における複製(31条)

公共図書館、国会図書館、大学・高専図書館には文献を複製することが条件付で認められています(31条)

絶版など入手困難な文献の場合は他の図書館の求めに応じて、文献の全部を複製して提供することができます。提供を受けた側はそれを所蔵資料とすることができます。資料保存の目的で毀損汚損のある文献を、その程度に応じて部分または全部を複製することが認められており、その際、紙資料からマイクロ化やデジタル化といった媒体変更も可能です。利用者の求めに応じて図書館が複製する場合は、利用者の調査研究の目的であり、その図書館の所蔵資料であり、著作物の半分を超えない場合に、1人に付き1部が認められています。

ここで言う著作物とは文献に収録されている個々の著作物を指し、文献1冊が1著作物ではない場合もあり、注意が必要です。地図、写真や楽譜は1枚ごとに独立した著作物と考えるようです。雑誌(逐次刊行物)の場合は次の号がでたら、収録された個々の著作物の全てを複製する事が認められます。図書館が独自に行なう複製でも、利用者の求めに応じて行なう複製でも、図書館の管理下にある人的・ 物的手段を用いることが定められています。

一部の図書館で30条による複製が行なわれています。コピー機は業者が設置・管理し、利用者が個人的に図書館内で私的使用目的の複製をしていると、解釈しています(『横浜市立図書館の「勇気ある」決断』、カレントアウェアネス、No.248、2000.4)。この状態であれば、利用者はコンビニ価格で自由自在に複製が可能で便利ですが、著作権団体からクレームが着いています(『図書館におけるコピーサービス』出版ニュース、2001.1/上・中)。この問題の法的決着はまだ着いていないようです。

2017年12月1日:追記 2003年に30条コピーである旨の掲示を撤去し31条の趣旨を明示する、複写申込書を置く、著作権団体との話し合いは継続する、となったようです(図書館と著作権と資料の複写 その7)。つまり、利用者による31条?セルフサービスです。著作権法上、図書館における複写は職員が行うとされ31条であっても問題は解決していませんが、恐らくその状態で膠着しているのではないかと思います。

また、31条で資料の複製が認めらているのは政令で定められた図書館だけで、公民館図書室や小中高校図書室には複製が認められていません。しかし、多くの図書室でコピー機の設置と資料の複製が行なわれていますが、その法的根拠は不明です。


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